2020年3月24日に、第105回薬剤師国家試験の合格発表がおこなわれました。
受験者数1万4,311人のうち、合格者は9,958人と、前回を236人下回る結果となりました。
合格率は69.58%(前年度:70.91%)と、前回と同様の水準であったものの、問題の難易度は上がったといわれています。
この記事では、第105回薬剤師国家試験の内容から、国が今後どの様な薬剤師を求めているのかを考察していきます。
前回国試より導入されている禁忌肢についても、予想を交えながら触れていきます。
出典:第105回薬剤師国家試験問題及び解答(令和2年2月22日、2月23日実施)/厚生労働省
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第105回薬剤師国家試験の傾向と難易度
第105回薬剤師国家試験の合格率は、前年の70.91%から1.33ポイント減の69.58%で、前回と同程度の水準でした。
しかし、全問題の得点が前回の450点から426点に下がっており、全体の難易度は上がっています。
特に、科目ごとの難易度にばらつきはあるものの、必須問題の難易度は高く、多くの薬学生が苦戦を強いられるものでした。
既出問題の類似問題も出題されていますが、そのままの出題ではなく、周辺知識を問われるものであったため、難易度が高くなったと考えられています。
全体を通しても構造式や図、グラフを用いた問題も多く、総合的な理解が求められています。
ここでは、図を用いた問題の例として、腎臓の模型図から腎盂(じんう)を選ばせる問題をご紹介します。
問 11
下図はヒトの腎臓の断面を示す。 1~5のうち、腎盂はどれか。1つ選べ。
出典:1日目① 必須問題/厚生労働省
腎盂の名前や役割は理解していても、腎盂の位置を正確に理解している薬学生は少なく、正答率の低い問題の一つとなりました。
なお、正答は「4」となっていますが、「1」を選んだ方も多いのではないでしょうか。
また、薬理/病態の2連問が3題(理論)、化学/生物/衛生の3連問が1題(理論)、法規/実務の4連問(実践)など、科目の壁を越えた連問が前回と同様に出題されたこともポイントです。
これらは、第106回国家試験から適応となる「新出題基準」を意識した問題で、「総合的な力」や「考える力」が求められています。
ここでは、具体例として化学/生物/衛生の3連問をご紹介します。
問 119−121
健康な成人における糖質の消化・吸収過程について、消化管における糖質の消化のプロセス(図1)、小腸粘膜上皮細胞におけるグルコースの輸送過程(図2)及び糖尿病治療薬アカルボースの構造式(図3)を示した。以下の問いに答えよ。
問 119(衛生)
消化管における糖質の消化・吸収に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- 酵素Aは膵臓ランゲルハンス島B細胞で合成・分泌される。
- 酵素Bは小腸粘膜上皮細胞の管腔側の膜に存在する。
- ラクトースは、グルコースとガラクトースが a1→4結合で結合している。
- マルトースやラクトースは小腸で直接吸収されない。
- アカルボースは、酵素Bと酵素Cの活性を阻害する。
問 120(物理・化学・生物)
小腸粘膜上皮細胞における糖の輸送過程に関する記述のうち、正しいのはどれか。2つ選べ。
- ガラクトースは、単純拡散により細胞膜を通過して細胞内に取り込まれる。
- 輸送体Dは、細胞内外の Na+ の濃度勾配を利用して、グルコースを細胞内に取り込む。
- 輸送体Dは、マルトースの輸送体としても働く。
- 輸送体Eは、ATP の加水分解により得られたエネルギーを利用して、グルコースを毛細血管側に輸送する。
- 輸送体Fは、ATP の加水分解により得られたエネルギーを利用して、K+(イオン①)を細胞内に、Na+(イオン②)を細胞外に輸送する。
問 121(物理・化学・生物)
a‘グルコシダーゼ阻害薬であるアカルボースに関する記述のうち、誤っているのはどれか。1つ選べ。
- マルトース型の部分構造が含まれる。
- 破線で囲んだ部分の結合様式は b1→4結合である。
- 水に溶けやすい。
- ヘミアセタール構造をもつため、フェーリング試液による沈殿反応を示す。
- p‘ベンゾキノン試液による呈色反応を示す。
出典:1日目② 一般問題(薬学理論問題)/厚生労働省
正答はそれぞれ問119で「2、4」、問120で「2、5」、問121で「2」となっています。
そのほかにも、オリンピック・パラリンピックなどの時事的な話題に加えて、AMR(薬剤耐性)やチーム医療、健康サポート薬局などの近年の医療業界における重要な内容についても、問われる問題が多く出題されました。
「国が求める薬剤師像」について、しっかりと理解した上で学習することが求められているのが、近年の国家試験に共通するポイントですね。
第105回薬剤師国家試験の禁忌肢をスバリ予想
医療人としての高い倫理観と使命感を確認するために、前年度の第104回薬剤師国家試験より、禁忌肢が導入されました。
第105回薬剤師国家試験においても、引き続き禁忌肢は導入されていますが、どの問題が禁忌であるかについては、前年同様に公表されていません。
そこで、本稿では独自に禁忌肢に該当していそうな問題を独自にピックアップしましたので、ご紹介していきます。
なお、厚生労働省の「薬剤師国家試験のあり方に関する基本方針」によると、禁忌肢は下記の内容について誤った知識を持った受験者を識別することを目的に導入されています。
- 公衆衛生に甚大な被害を及ぼすような内容
- 倫理的に誤った内容
- 患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容
- 法律に抵触する内容
禁忌肢予想①
問 146
患者の自己決定に関する医療従事者の対応として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 患者が自己決定をした場合、その決定がもたらす結果を説明する。
- 患者の性格やそのときの心理状態に配慮し、意思決定しやすい環境を確保する。
- 患者は医療に関する知識が乏しいので、患者の意向を聞かず、医療従事者のみの判断で全ての方針を決定する。
- 患者の家族が同居していれば、患者本人の意向にかかわらず家族の意向を優先する。
- 患者と医療従事者の関係性を強化するためにパターナリズムの原則に従う。
出典:1日目② 一般問題(薬学理論問題)/厚生労働省
患者の自己決定について問われたこちらの問題では、「3」や「4」は『倫理的に誤った内容』および『患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容』に該当する、禁忌肢であると予想されます。
医療者にとって、「患者中心の意思決定」という考え方は、今では当たり前になっています。
患者の持つさまざまな権利を害することは許されないため、誤った選択肢を選ぶことのないように注意しなくてはなりません。
なお、正答は「1」と「2」です。パターナリズムやインフォームドコンセントにおける正しい知識を有していれば、自信を持って回答できる平易な問題となっています。
禁忌肢予想②
問 282−283
73歳女性。卵巣がんStageⅢc に対して TC(パクリタキセル+カルボプラチン)療法を施行していたが6ヶ月後に再発した。
そこで2次療法として、ドキソルビシン塩酸塩を MPEG-DSPE修飾リポソームに封入した注射剤(ドキシル®注)を導入することになった。
問 282(薬剤)
略
問 283(実務)
5コース目の投与中に、患者から、刺入部に耐え難い焼かれるような痛みを感じ、赤く腫れているとの訴えがあり、ドキシル®注の血管外漏出が疑われた。
本剤の血管外漏出の対処法として、適切なのはどれか。2つ選べ。
- 患部を温める。
- すぐに留置針を抜く。
- 患部を生理食塩液でフラッシュする。
- デクスラゾキサンを静脈内投与する。
- 漏出部周囲から薬液や血液を吸引・除去する。
出典:2日目② 一般問題(薬学実践問題)/厚生労働省
壊死起因性抗がん剤に該当するドキシル®注(ドキソルビシン)では、少量の漏出でも強い痛みが生じ、水疱や潰瘍、組織障害や組織壊死を生じる可能性が知られています。
血管外漏出が疑われる場合には、すぐに留置針を抜かずに、薬液や血液(約5mL)吸引・除去した上で注射針・ルートの抜去をおこなわなくてはなりません。
本問の選択肢「2」の「すぐに留置針を抜く」は、重大な有害事象を引き起こす可能性があるため、『患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容』に該当する、禁忌肢であると予想されます。
なお、正答は「4」と「5」です。選択肢中のデクスラゾキサンは、サビーン®の商品名で知られています。
禁忌肢予想③
問 337
アドレナリン自己注射用キット製剤において、使用時に針が出ないという不具合が報告され、独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)より、クラスⅠの回収情報が出された。
この報告を受けて、ある病院の薬剤師が該当ロットの製剤の納品履歴があるかどうかを確認したところ、 6ヶ月前に1本納品されていたが、調剤済みで在庫はなかった。
該当ロットの製剤の使用期限はあと9ヶ月程度残っていることが判明した。
この病院がとるべき対応として最も適切なのはどれか。1つ選べ。
- クラスⅠの回収であるため、今後の様子を見守る。
- 該当ロットの製剤を調剤された患者に連絡をし、未使用であれば代替品と交換する。
- 病院ホームページにおいて、該当ロットを公表し、患者からの連絡を待つ。
- 患者から該当ロットの製剤を回収し、代替品を提供し実費を請求する。
- 該当ロット以外の製剤についても、可能な限り回収する。
出典:2日目③ 一般問題(薬学実践問題)/厚生労働省
医薬品等の自主回収では、回収される製品によりもたらされる健康への危険度の程度により、クラスⅠ~Ⅲの分類がおこなわれています。
最も重大な分類であるクラスⅠとは、その製品の使用等が、重篤な健康被害又は死亡の原因となりうる状況のことをあらわしています。
今回の事例では、患者に対して該当ロットが交付されており、使用期限が残存していることから医薬品を使用する可能性があるため、すみやかに情報提供や回収を含めた対応をおこなわなくてはなりません。
本問の選択肢「1」や「3」は、患者の被害拡大につながるだけでなく、薬機法 第六十八条の九(危害の防止)に違反するおそれもあります。
『患者に対して重大な障害を与える危険性のある内容』および『法律に抵触する内容』に該当するため、禁忌肢であると予想されます。
なお、正答は「2」です。落ち着いて回答すれば、間違える可能性は少ない問題なので、禁忌肢を選んだ方はそう多くはないでしょう。
参考 医薬品等回収関連情報/厚生労働省
第105回薬剤師国家試験の傾向からみる国が求める薬剤師像
第105回薬剤師国家試験の傾向として、考える力や問題解決能力、臨床力、実践力を問う内容が増えているということが挙げられます。
これらは、第106回薬剤師国家試験の基準となっている、「改訂モデル・コアカリキュラム」の内容を受けており、今後国が求める薬剤師像が色濃く反映されていると考えられます。
薬剤師としての心構え(使命感、責任感、倫理観)や、患者・生活者本位の視点、コミュニケーション能力、チーム医療への参画は、今後の薬剤師の基本的資質として不可欠です。
薬局をとりまく環境は大きく変化しており、薬剤師に求められる業務も日々変化を続けています。
今後は、薬機法改正案で示された「地域連携薬局」や「専門医療機関連携薬局」において、力を発揮する薬剤師が増えることが予想されています。
現状においても、かかりつけ業務や地域医療を通して、身近な生活圏の方々の健康増進をサポートしていくスキルを身につけていくことが求められているのですね。
総評とまとめ
第105回薬剤師国家試験の総評
- 第105回薬剤師国家試験の合格率は69.58%(新卒は84.78%)で前年並み
- 問題の難易度は比較的高く、特に必須問題の難しさが際立った
- 禁忌肢はいずれも平易な問題が多く、合格率に大きく影響していることは考えにくい
第105回薬剤師国家試験の内容やポイント、または禁忌肢について、実際に出題された問題をみながら解説していきました。
総評としては、問題の難易度は前回よりもやや高く、特に必須問題は近年の国家試験の中でも、最も難しい問題となりました。
一方で、第101回より適用されている相対基準によって合格者数がコントロールされているため、合格率が大きく変わるということはありませんでした。
また、禁忌肢も前回の第104回に引き続き導入されていますが、基本的には平易な問題が多く、合格率に大きく影響してはいないと考えられています。
2021年に実施予定の第106回薬剤師国家試験は、「新出題基準」に基づく初の試験となります。
問題の予想が難しいことから、これまでの傾向や「国が求める薬剤師像」を見据えた学習が求められているのではないでしょうか。

ヤス

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