会社としての利益を追求するあまり、薬剤師に対して必要以上のノルマ、違法なノルマを課す調剤薬局チェーンも存在します。
門前薬局の処方箋にはどのようなノルマが存在するのか、具体例を交えつつご紹介していきたいと思います。
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調剤薬局の利益の構造
薬剤師に課せられるノルマを知る前に、まずは調剤薬局の利益の取り方について簡単にふれたいと思います。
調剤薬局は何に力をいれているのかを知るためです。
調剤薬局の売上の大部分は、処方せんによる保険調剤に依存しています。
保険調剤にかかる費用は、調剤報酬としてすべて“点数(1点は10円)”としてカウントされ、薬の価格は、全国一律の“薬価”が定められています。
合計して得られた請求点数に、「年齢や収入や障害の状況に応じた負担割合」をかけて患者様の自己負担額を徴収しています。
自己負担以外は後に保険者より支払われます。
薬局の主な利益は、薬価差益(薬剤の薬価と仕入れ値の差額)と調剤技術料と薬学管理料を含む広義の技術料(以下技術料)です。
図1.調剤報酬の構成要素
調剤報酬の内訳は
図2.にごくありふれた内科の門前薬局の一年間の調剤報酬の内訳を示しました。
図2.A調剤薬局の調剤報酬内訳
薬剤料は、その処方せんに書かれている薬剤の価格や量によって決まってしまいます。
薬局の収益を成長させるには、薬剤師の業務内容や、薬局の取り組みによって変わってくる調剤技術料を多くとれるように仕事をするのが基本となります。
調剤薬局にはどのようなノルマがあるのか
調剤薬局チェーンが利益を追求する場合、先に挙げた技術料の算定を増やすことに注力することになります。
その中でも、次の3つの技術料の算定に対するノルマが多いようです。
技術料算定に対するノルマ
- 後発医薬品調剤体制加算
- かかりつけ薬剤師指導料
- 基準調剤加算
実際の事例をご紹介したいと思います。
後発医薬品調剤体制加算に対するノルマ
筆者が見たのは、とある調剤薬局チェーンが、後発医薬品変更不可の指示が入った処方箋を、”医師への問い合わせ“も“患者様への説明”もなしに後発医薬品に変更している実態でした。
この場合、2つ不適切なポイントがあります。
- 医師から後発医薬品を使わないように指示があるのに無視している事
- 患者様の同意を得ていない事
これは、会社が薬剤師に対して後発医薬品の調剤割合にノルマを科し、後発医薬品調剤体制加算を算定しようとしているからです。
後発医薬品調剤体制加算とは
調剤技術料のうち、後発医薬品調剤体制加算は、その調剤薬局で後発医薬品を使用している割合が65%以上で18点(180円)、75%以上で22点(220円)が調剤基本料に加算されます。
後発医薬品を使えば使うほど、加算により粗利益が増加するため、薬局としては積極的に使用したいものなのです。
ただし、どの後発医薬品を使うかどうかは医師が指定しない限り患者様に選ぶ権利があります。
本来薬局側は、後発医薬品について患者さまに丁寧に説明したのち、提供できる範囲の希望を聞くことが必要なのです。
どの程度のノルマが不正の温床となるのか
後発医薬品の調剤割合に対するノルマ自体は65%~75%の間だったようです。違法なノルマではありません。
しかし、経営者が店舗側の事情を無視し、「目標値へ必達」と圧力をかけることで不正の温床になり得ます。
後発医薬品の調剤割合が55%の店舗があったとします。
処方せんの大部分を発行している医師から「処方せんは後発医薬品へ変更しないように」と指示を入れてきた場合、その医師からの処方せんは後発医薬品を調剤することはできません。
その他の医師からのわずかな処方せんで後発医薬品の調剤割合を10%上げるとしたら、それには大変な労力が必要になります。
その事情を経営者に言っても、薬剤師が無能呼ばわりされてしまえば、患者様と医師を無視して「勝手に変えてしまえ」となってしまうのです。
薬剤師の個人評価に、後発医薬品の調剤割合を出来高で結び付けると、患者様を無視する輩が出てくるのです。
かかりつけ薬剤師指導料の算定件数に対するノルマ
かかりつけ薬剤師指導料の算定を多く抱えすぎ、休憩中にも呼び出され、ろくに昼食も取れない職場もあります。
平成28年度調剤報酬改定で導入された、かかりつけ薬剤師指導料の算定件数を増やすよう、会社から命令されているからなのです。
かかりつけ薬剤師は、薬剤師の職能を発揮し、患者様に有益な仕事ではあります。
しかし、だからといって限度というものがあります。
主観にはなりますが、かかりつけ薬剤師加算を算定する患者数は、じっくり患者様をアセスメントするなら薬剤師1人当たり10人から30人までが妥当ではないでしょうか。
この人数を超えてくると、先ほども述べたように、休憩中もノルマに追われることになります。
基準調剤加算の算定に対するノルマ
ワークライフバランスを考えるなら、基準調剤加算の算定の有無も確認しましょう。
基準調剤加算を算定している場合、患者様から緊急の調剤の要請があれば夜間・休日でも24時間体制で調剤に応じる義務があります。
実際は、次の2通りの対応が多くなってきます。
- 店舗の緊急連絡先の携帯電話を輪番で持つ
- 管理薬剤師がほとんど全て対応する
この夜間休日対応のため、プライベートの行動が制限されます。
電話に出られない飛行機での移動や、駆け付けられない所に遠出することも出来なくなります。
日単位で手当てを出している会社もありますが、報酬さえあればそれで良しとするかは家庭の状況や個人の価値観によるでしょう。
かかりつけ薬剤師指導料を算定している場合も夜間休日対応が求められる
かかりつけ薬剤師指導料を算定した場合にも、該当する患者様へ夜間休日対応が求められ、自分の連絡先を直接伝える必要があります。
夜間でも休日でもいつ電話が来るかわからなくなります。
夜間・休日対応を減らすためには
日頃の対面での服薬指導時に、患者様の感じている疑問にしっかりと耳を傾け、丁寧に説明をしておきましょう。
筆者の経験上、そうすることで患者様の薬物治療に対する理解が進み、問い合わせは減っていくものです。
夜間休日の電話の負担が重くなるかどうかは、薬剤師の腕にもかかってきます。
まとめ
門前薬局の処方にかせられるノルマにはどのようなものがあるのか、実際の事例などを元に説明させていただきました。
これら不当なノルマを課せられるブラック企業かどうかを、転職前に確認するにはどうすればいいでしょう?
転職前の店舗見学の際は、次の3点を確認することをオススメします。
- 後発医薬品の使用数量にノルマがあるか
- かかりつけ薬剤師の1人あたりの月間算定件数が30人を超えていないか
- 基準調剤加算による「夜間対応の頻度」と「手当の有無」
これらを確認するだけでも、おおよその手ごたえを掴めるのではないでしょうか。
その他にも調剤薬局での残業の原因にはいろいろとあります。
その会社の出店計画であったり、薬局内の年齢構成であったり、一包化頻度の高い処方箋があるかなど様々です。
それら、調剤薬局の残業の原因となるものを一覧にまとめました。
興味のある方は是非ご覧くださいね。
「調剤薬局の残業の原因を徹底解剖!薬剤師の残業のない調剤薬局の探し方」