国の推進する地域包括ケアシステムにおいて、薬剤師が患者さんに対してかかりつけ薬剤師として携わっていくことが求められています。
しかし、「かかりつけ薬剤師制度」の実態はどのようになっているのでしょう?
採算は取れているの?
現場ではどのような苦労があるのか??
気になる薬剤師さんも多いことでしょう。
その気になる「かかりつけ薬剤師制度」の実態についてご説明したいと思います。
かかりつけ薬剤師に力を入れている職場
かかりつけ薬剤師業務に力を入れている薬局は大きくは次の2つに分けられてきます。
利益率維持を目指す大手チェーン薬局
1つ目は「調剤基本料特例除外」を目指す薬局です。
平成28年度診療報酬改訂に伴う変更により、調剤基本料の区別が変更されました。
- 特定の医療機関からの処方箋集中率が高い
- 受付け処方箋枚数が多い
- 大手チェーン薬局である
これらの条件を満たす場合は、調剤基本料が低く設定されるようになったのです。
条件を見てわかるように、大手チェーン薬局の「門前薬局」の調剤基本料を低くするための改定であることが見て取れます。
しかし特例除外の要件を満たすことで、低い方の調剤基本料の区分に該当していても、その区分から除外される事が可能です。
特例除外の要件として、
- 勤務薬剤師の5割以上がかかりつけ薬剤師であること。
- 月当たりの、かかりつけ薬剤師指導料 及び かかりつけ薬剤師包括管理料の合計算定回数÷勤務薬剤師数が、100以上であること。
(自己負担がない患者に係る算定回数を除く)
以上の2つが挙げられます。
つまりは、大手チェーン薬局の「門前薬局」は調剤基本料の区分が低く設定されてしまうが、「かかりつけ薬剤師」業務を積極的に行うことで、低く設定された調剤基本料の区分を元に戻すことができるのです。
受付枚数の多い薬局では、調剤基本料の区分によっては月の利益が数十万単位で変わってくるため、特例除外を目指す薬局は積極的にかかりつけ薬剤師業務を行っています。
大手チェーン薬局が、かかりつけ薬剤師業務に力を入れているのは、こういった側面も少なからず影響しているかもしれません。
かかりつけ薬剤師業務に魅力を感じる薬局
2つ目は純粋にかかりつけ薬剤師業務に魅力を感じて行っている薬局です。
厚生労働省が推し進める、地域包括ケアシステムを構築する一環に位置付けられているであろう、かかりつけ薬剤師制度の重要性を感じ取っている薬局は積極的に行っているのではないでしょうか。
むしろ、かかりつけ薬剤師業務を行っていない薬局は淘汰される時代が来る可能性が十分に考えられるので、そういった危機感を持っている薬局は今から少しずつでも、かかりつけ薬剤師業務を取り入れています。
かかりつけ薬剤師に指名してもらうためには
かかりつけ薬剤師は基本的に外部での営業活動によって患者さんを増やすものではなく、普段来局している患者さんの自分からの提案により、同意書を交わし獲得するものになります。
しかし、同意書を書いてもらうにはそれなりのハードルがあります。
そもそも、一人薬剤師でやっている薬局では指名もなにもありませんのでピンとこない患者さんも多くいます。
かかりつけ薬剤師業務のほとんどは、普段から行っている業務と重なっている部分が多いです。
患者さんの中には今までとほとんど一緒なのに負担金が増えるので特に必要ないという方もいます。
かかりつけ薬剤師を持つことで享受する、患者さんへのメリットをしっかりと説明できるようにし、自信を持ち、説得力のある言葉で提案できるように日頃から準備しておきましょう。
かかりつけ薬剤師の苦労
かかりつけ薬剤師業務における現場の苦労は付き物であり、色々な話を耳にします。
24時間対応による苦労
まず良く聞くのは24時間対応に伴う苦労です。
夜間・休日は電話対応がメインになりますが、例え夜中の3時であっても電話が来た場合は対応しなければなりません。
もちろん翌日も仕事はありますし、電話対応に対するストレスを感じる薬剤師は少なくありません。
時間外にいくら対応しようが、同じ患者さんから月に何度電話がかかって来ようが、受付1回であればその時に算定されるかかりつけ薬剤師指導料70点(700円)のみのインセンティブなのです。(※2017年現在)
対価が見合っていないという意見も多くあり、モチベーションが上がらない一つの要因になっているのかもしれません。
困った患者さんによる苦労
これはごく一部かもしれませんが困った患者さんがいるのも耳にした事があります。
会社携帯とはいえ24時間直接連絡の取れる電話番号を教えることによって、相談を装って食事の誘いや、ただ声を聞きたいからといった理由で電話がかかってくるケースもあるようです。
一元管理の不徹底
患者さんによってはかかりつけ薬剤師同意後も、一部の薬は病院の近くでもらってくるケースがあるので一元管理が不十分になる事があります。
お薬手帳の活用で把握することは可能ですが、理想的な一元管理とまではいかない患者さんもいるので、面倒でもどうやって全ての処方箋を持ってきてもらうか頭を悩ませている薬剤師も少なくありません。
かかりつけ薬局は食べていけるのか
かかりつけ薬局として活動するにあたってかかるコストを考える上で、各患者さんが持ち込む幅広い医療機関の薬を取り揃える必要があるため当然在庫量が増え、それに伴うデッドストック(不動在庫)の問題が出てきます。
門前薬局でもそれなりにデッドストックは出ますが、かかりつけ薬局となる事で面対応の要素が生じてくるため、デッドストックによる廃棄分のマイナスがかさむ場合もあります。
かといって、それをカバーするだけの処方箋枚数のアップが期待されるので、デッドストックのコストは問題無いと言えるでしょう。
ただし、かかりつけ薬局に求められる在宅対応に関しては場合によって経営面での問題が生じる場合があります。
“サービス付き高齢者専用住宅”や“老健施設”のように複数の患者さんを一カ所で対応できる場合は影響は少ないのですが、個人宅の在宅対応が増えすぎると話は変わってきます。
患家を一軒一軒訪問しての業務となるので、それに対応する薬剤師が必要となるので、その分人件費がかかります。
薬剤師1人分の給料をカバーする分の在宅患者さんがいなければ、移動や対応に時間のかかる在宅対応は逆にやればやるほど赤字になるといったケースもあります。
かかりつけ薬剤師として働きやすい職場
かかりつけ薬剤師として働きやすい職場としては、以下の5つが挙げられます。
1薬剤師の人数が多い薬局
かかりつけ薬剤師として働きやすい職場としてまず挙げられるのは、ある程度薬剤師の人数の多い薬局です。
電話対応にせよ在宅対応にせよ、少人数の薬局では負担が大きくマンパワー不足による弊害が出る可能性があるからです。
2在宅対応に力を入れている薬局
在宅対応に力を入れている薬局は、そもそもがかかりつけ薬剤師業務に準ずる内容が多いので、環境としてはやりやすいと言えるでしょう。
3研修制度がしっかりしている薬局
かかりつけ薬剤師になるためには認定薬剤師としての研修を継続的に行っていかなければならないため、研修制度がしっかりしている薬局であるかも選ぶポイントです。
4転勤がない薬局
信頼関係が最も重要視されるので「転勤がない」というのは言うまでもないでしょう。
5OTCを取り扱っている薬局
OTC(一般用医薬品等)を広く取り扱っている薬局であれば、処方薬以外の部分の一元管理もしやすくなるので、向いていると言えるでしょう。
まとめ
かかりつけ薬剤師制度が始まってまだ間もなく、国も現場も手探りの中で様々な肯定的な意見や批判の声も出ています。
実際にかかりつけ薬剤師としてやりがいを感じている方もいれば、制度の内容に疑問を持ち行っていない方もいます。
国が推し進める地域包括ケアシステムの中では、かかりつけ薬剤師の存在は今後ますます重要なポジションとなってくるでしょう。
まだまだ発展途上といえる「かかりつけ薬剤師制度」のさらなる発展が望まれます。

サム

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