2021年8月から、「地域連携薬局」の認定制度がスタートしました。
地域連携薬局は、外来受診時だけではなく、在宅医療への対応や入退院時を含め、他の医療提供施設との服薬情報の一元的・継続的な情報連携に対応できる薬局であることが求められるものである。
引用:薬生 発0129第6号 医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律等の 一部を改正する法律の一部の施行について
地域の医療連携や在宅サポート体制が整うことは、患者さんのためになります。
医療機関と連携が進むことは、薬局薬剤師の仕事の円滑化にもなりますね。
ただし地域連携薬局には、認定要件が多い・健康サポート薬局との違いがわかりにくいなど問題点も多いのが現状です。
今回は薬剤師100名を対象に、地域連携薬局についてアンケートを行いました。
地域連携薬局の様々な課題や、目指したい薬局のビジョンが見える結果となっています。
三上小夜香
大手調剤薬局に勤務後、転勤族であるMRとの結婚により退職。結婚後はしばらくパートで働き、派遣薬剤師に転向。妊活に専念するため退職し、現在は子育てとライターの兼業中。趣味はゲームとネットサーフィン。
対象者:薬剤師100人
調査方法:クラウドワークスによるインターネット調査
調査期間:2022年1月12日~1月20日
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地域連携薬局について賛成?反対?
まずは、地域連携薬局自体に賛成か反対か伺いました。
結果はこちら。
地域連携薬局には賛成と答えた薬剤師が多い結果ですが、反対も少なくはありません。
それぞれを選んだ理由は以下です。
※複数回答可
地域連携薬局に賛成の理由
地域連携薬局に賛成の理由として、最も多く挙がったのは「患者さんのためになるから」でした。
医療機関との連携や在宅サポート強化は、当然患者さんのためになります。
地域連携薬局は、薬局が目指すべき姿の指針にも。
薬局が生き残るためにも、患者さんに選ばれるための努力は欠かせません。
病院との情報共有や医薬品の一元管理は、薬剤師側の効率化にも繋がります。
今後の加算追加も期待されますね。
地域連携薬局に反対の理由
地域連携薬局に反対の理由としては、「無菌製剤処理の実施が難しい」ことや「認定を取る事が目的の薬局が出そう」という意見が多い結果です。
周辺薬局を含め、無菌製剤処理の設備がない薬局は珍しくありません。
薬局構造に関わる要件で認定が受けられないことは、反対意見に繋がるでしょう。
薬剤師の仕事量を増やす要件であるため、負担の増加を懸念する声も多かったです。
薬剤師の負担増加は過誤にも繋がるため、慎重に検討することが大切です。
地域連携薬局の改善点は?
次に地域連携薬局において、改善した方が良いと思う点を伺いました。
結果は以下です。
※複数回答可
地域医療を支える薬局として、すでに「健康サポート薬局」の認定が存在します。
「地域連携薬局」と「健康サポート薬局」はかなり役割や位置付けが似通っており、2つの違いの分かりにくさが最大の改善点として挙げられました。
地域連携薬局の、認定要件の多さや難しさも多く指摘されています。
特に無菌製剤処理の実施環境を整えるのは、かなり難しい薬局が多いでしょう。
薬剤師の負担が大きく増える割に、現状では加算がつかないことも問題です。
地域連携薬局の推進には、加算の追加と医療機関とのスムーズな連携体制が求められます。
地域連携薬局の認定要件の中で対応が難しい項目は?
改善点として多くの薬剤師が挙げた、地域連携薬局の認定の難しさ。
認定要件項目が多いだけではなく、1つ1つの対応の難しさも注目されています。
中でも特に対応が難しいと感じる要件を、回答いただきました。
※複数回答可
アンケートの結果、最も難しい要件は「医療機関への月平均30回以上の情報共有実績」となりました。
月30回の情報共有を継続するには、医療機関側からの大きな協力が必要。
情報の共有方法も簡単ではなく、継続は難しいと感じる薬剤師が多い現状です。
ギリギリの薬剤師数で運営している薬局も多く、開局時間外の対応も難しい要件。
在宅医療への取り組みを継続できるほど、人員がいない薬局も少なくありません。
限られた勤務時間の中で、研修の継続的な受講も大変です。
ハード面やマンパワーが追いつかず、認定が難しいと感じる薬局も多いと言えます。
地域連携薬局に意欲的になるには?
薬剤師への負担が大きく、認定も難しい地域連携薬局。
考え方には賛成でも、大変すぎて意欲的になれない薬剤師も少なくありません。
地域連携薬局への取り組みに、意欲的になるにはどうすれば良いか伺いました。
※複数回答可
地域連携薬局に対し、「給与があがる」と意欲的になれると言う声が多く挙がりました。
休日・夜間の対応含め、薬剤師の負担が大きく増える地域連携薬局の認定要件。
給与が上がれば頑張れると感じるのは当然であり、そのためには診療報酬の加算が欠かせません。
薬局だけで進められる内容ではないため、病院側の協力体制も求められます。
病院・薬局の双方に負担がかかりにくい、オンラインでのスムーズな情報共有体制が望まれますね。
地域連携薬局について現場の薬剤師が今思うこと
最後に、薬剤師が地域連携薬局について思うことを伺いました。
実際のご意見を、いくつか紹介します。
※ご意見は読みやすいように一部調整しています。
在宅で今後モルヒネ持続なども必要になるので、無菌調剤室のある薬局は必要になってくるはず。化学療法を受けている患者さんも今後は保険薬局でも副作用や飲み合わせをフォローし、病院薬剤師と連携していければ理想的。
情報共有を30件。通常業務とは別に行うことがなかなか時間がかかるし、無菌製剤処理を実施の要件も近くにないから余計に厳しい。
言葉面はいいが、患者からしたら何をしてもらえるのか、どこが他薬局と違うのかが全くわからない。もっと利用者側にもメリットを分かりやすくアナウンスすべきだと思う。
患者さんのため、医療のためとはいえ、始めるには薬剤師の業務負担が尋常では無いと思う。かなりの負担を伴うので、やる気だけではカバーできない。大手のチェーン薬局が強制的にやるくらいでは…
医療連携は必要だと思うので設定してほしいところ。ただ薬局だけでなく、病院やクリニックにも加算を与えることで、お互いに仕事をしやすい環境を整えてほしい。
私の薬局では常勤の管理薬剤師とパートの私の薬剤師二人体制でやっている為、在宅への対応、勉強会参加はマンパワー的にまず難しいです。
薬局を地域医療の拠点にという視点は素晴らしいと思いますが、このような現実の薬局は多く、対応は難しいところが多いのではないでしょうか。
地域での連携は、出来ると思います。デジタル化により情報の共有のスピードが上がってますので、医療の分野でも、個人のプライバシーに留意すれば可能だと思います。
健康サポート薬局や地域連携加算など、似ている要件について統合してほしい。類似の要件が多く、どこを目指していいかわかりにくい。
要件を満たすのは難しいところはあるが、それだけに薬局の差別化につながる。これから地域住民に薬局を選んでもらうためのポイントになる。将来的には点数がつく可能性が高いと考えている。よって地域連携薬局を目指している。
働く薬剤師にとっては、キツいことも多いですが、政治的に薬剤師はいらないのではないか?という声が大きくなっている中で、できることを広げていかないと、薬剤師の未来はないと思います。
地域連携薬局の強化のための支援をしてほしい。昨今の薬局薬剤師・在宅や施設に関わる薬剤師へ求める仕事がやりがい搾取に感じている。薬局の薬剤師には自分を大切にしてほしい。
地域連携薬局への取り組みは必要と感じながらも、実施の難しさや大変さに悩む薬剤師の声が伺えました。
現在の認定要件では、ハード面やマンパワー面で取り組みが難しい薬局が取り残されてしまいます。
全ての薬局が無理なく、地域医療連携できる制度化が望まれています。
まとめ
地域連携薬局の要件は、難しいながらも今後目指すべき薬局の指針となっています。
在宅でのサポートが必要な患者さんが増える今後、地域の医療連携は欠かせないものになるでしょう。
要件を満たすことが全てとならず、それぞれの薬局が地域医療連携・在宅サポートに取り組む体制が整うことが望まれます。
ただし地域医療の強化において、薬剤師のやりがい搾取になることは避けなければなりません。
診療報酬の加算や連携のしやすさなど、薬剤師の負担が増えずにより良い薬局の形へ進めるのが理想ですね。